プライマリーバランス重視の実態 ~小遣い帳レベルの財政政策~

財務省組織図

プライマリーバランス重視の政策を分析し、「小遣い帳レベル」と言われる財政政策の実態について考える

プライマリーバランスの黒字化政策、という大方針は、政府方針として掲げられている。財務省とマスコミのミスリードは功を奏して、その考え方は浸透し、抑制された財政政策の基礎となっている。一方で「プライマリーバランスの黒字化」は国を滅ぼす、という識者もいる。私もその考えに非常に近い。
現在の政府の大方針である「プライマリーバランスの黒字化」政策について、考えてみた。是非お付き合いいただきたい。

なお、過去にも「プライマリーバランス黒字化」について述べているので、是非そちらもご覧いただきたい(➡「プライマリーバランス黒字化」という目標を~)。

1.プライマリーバランスの黒字化政策とは

プライマリーバランス(Primary Balance)とは「基礎的財政収支」と言われるもので、簡単に言えば、収入から支出を引いた収支状況をいう。ただし国の借入(国債)に関する収入・費用はこの計算から除く。すなわち、プライマリーバランスの計算上の収入は純粋に国の税収であり、費用は国債の利払いを除いた支出となる。

プライマリーバランスこの「プライマリーバランスの黒字化」とはその言葉どおりで、要するに「国の支出は国の収入に見合う分のみとする」という考え方である。それに基づいた財政支出が行われ、黒字化を目指していく、というものである。

確かに考え方としては、「収入に見合った支出をする」というわかりやすいものであると言える。

これを黒字化することが、2010年の当時の民主党政権である菅内閣により閣議決定され、それが政府の方針として継続して続いている。

プライマリーバランス推移

プライマリーバランス推移

このプライマリーバランスの黒字化を、財政の健全化の一つの手段として、財務省は強く主張している。添付のグラフは、プライマリーバランスの推移を示したものである。グラフのとおり、プライマリーバランスはマイナスで推移していて、その結果として政府の国債残高が増大している。

 

 

2.財務省の「2大愚策」

財務省という組織は、「最強の官庁」と言われ、省庁の中でもトップと言われる。昔は「大蔵省」であったが、橋本龍太郎首相の時の1998年の省庁再編で「財務省」と命名された。「大蔵省」は飛鳥時代の大宝律令にもあった名前でありそれを惜しむ声も多かったが、「財政・金融の分離」の中、金融庁の発足に伴い、「財務省」とされた。

財務省組織図

財務省組織図

財務省が「最強の官庁」といわれるのは、その強力な権力が背景にある。大きくは、①税金を取る徴税及び調査を行う権利(国税庁)②予算編成をつかさどる予算編成における権力(主計局)、の二つといえる。
更にこれを背景に、超強力なネットワークと影響力を持っている。それは、マスコミ及び政治家に深く入り込んでいて、陰に陽にその影響力が行使されてきている。

その財務省が主張する政策で、「2大愚策」といえるものがある。さすがに最強の官庁だけあり、それが「愚策」であっても、日本という国を滅ぼす気か、というレベルのものになってしまう。

財務省の2大愚策
① 財政緊縮(プライマリーバランス黒字化)
② 消費税増税

上記の二つが、国の経済を大きく停滞に持っていき、国の国防すら危うくしている。経済の停滞は国を滅ぼす。この「愚策」の二つはどちらも経済を大きく停滞させている元凶といえる。にも関わらずこれらを進めるのは、財務省が日本経済を考慮するよりも、財務省という組織の目的を優先するためである。「国益」よりも「省益」を優先する体質は、まさに財務省の伝統といえる。

そのうちの一つが、「財政緊縮」であり、その方法の根拠として「プライマリーバランスの黒字化」を利用してすすめているのである。

3.財政政策とは

ここで「財政政策」について述べたい。

マクロ経済学の考え方において、政府の果たす役割として2つ挙げられる。

・財政政策
・金融政策

簡単にいうと、「財政政策(fiscal policy)」とは政府が歳入・支出を増減させることで経済をコントロールする手法であり、「金融政策(monetary policy)」とは中央銀行が貨幣の量を増減させることで物価や通貨の安定を目的に行われるものである。

IS-LM分析

IS-LM分析

どちらも、その国の経済をうまくコントロールしその成長を進めるのための手法である。ケインズが提唱したものであり、政府・中央銀行の重要な役割として考えられるようになった。経済学においては「ISーLM分析」と呼ばれる手法により分析される。
「ISーLM分析」とは縦軸に利子率、横軸に国民所得を取り、「財」市場の均衡を示すIS曲線と、「貨幣」市場の均衡を示すLM曲線との相関を分析する手法である。これを用いることで、政府支出の増大や中央銀行の金融政策が国民経済にどのように影響を与えるか、が実証的に分析される。

こうした分析に基づいた政府と中央銀行の政策があれば、国民経済を継続的に成長する方向に導くことが可能である、としたのがマクロ経済学の父であるケインズの理論である。

4.プライマリーバランスに配慮した政府の財政政策(お金の使い方)を、家計で考える

ここで再度、「プライマリーバランスの黒字化」について考える。「プライマリーバランス」とは、政府の収入に見合う支出、という考え方になる。
あまり政府の行動を単純化しすぎると語弊を生むが、あえてここでは政府を家計に置き換えて考えてみる。

とすると、月収50万円の家庭であれば、支出はどんなに多くとも50万円とする、ということになる。家計で考えれば、考え方としては非常にシンプルでありわかりやすいものであるといえる。しかし、国の支出の考え方はこんなに単純でいいのだろうか?次は資産を考慮してみる。

5.資産を考慮した上でプライマリーバランスの黒字化を考える

先ほど、月収50万円の家計で考えたら、支出は50万円までとする、というのが、プライマリーバランスの黒字化に基づく支出の考え方である、と述べた。次に、資産を考慮した場合を考える。

貯金が1,000万円ある家庭と、貯金が50万円しかない家庭で、同じ収入で考える。同じ目標を持って「プライマリーバランスの黒字化」を考えた場合、当然、支出は収入と同じ50万円までとなる。

ここで、200万円の車を買って生活を便利にしたい、というケースを考える。その場合、この200万円を「収入に見合う額から」と考える人がいるだろうか?
プライマリーバランスの考え方を貫くと、月収50万円の家庭では、例えば毎月20万円ずつ貯金して(プライマリーバランスを20万円にもっていき)、それを10ヶ月続けて初めて買うこととなる。

しかし実際には、こうした長期的な投資ともいえる大きな買い物については、貯蓄から出したり、借金したりして、そこから資金を捻出して出すだろう。決して、毎月の50万円の中から出そうとは思わない。
そして、特に1,000万円の貯蓄がある家庭であれば、200万円の車に対して、そろそろ買うか、というレベルの支出といえるだろう。毎月の給与からの捻出というより、今までの累積を使って、生活をより便利にしていこうという「投資」としての考えをもって購入する。

お金に色はないので、毎月の収入から出すか、貯蓄から出すか、に大きな意味はない。しかし、貯蓄が十分にある家庭であれば、貯蓄から出すという余裕をもって買う、と考えるのが一般的と思う。
一方で、プライマリーバランスの黒字化だけ言われる家庭であれば、貯金が1,000万円あろうと、毎月の収入が50万円では、200万円の車を買うことは躊躇(ちゅうちょ)されるか、買わない、という結論にならざるを得ない。お金を使う時の心理として、「プライマリーバランス」ばかりを考慮すると、長期的な大きな支出は非常に難しい、という発想になってしまう。

6.「小遣い帳レベル」と言われる理由

上記の通り、「プライマリーバランスの黒字化」とは、非常に単純で分かりやすい概念である。しかしそれは、あまりにも単純化しており、国の財政を考えるうえで、まったくマクロ経済を考慮していない。
「ISーLM曲線」の示す通り、政府の「財政政策」は規模が大きいため国民経済に影響を与え、国の経済そのものを大きくする力を持つ。そこが家計と全く異なる部分である。しかし、それに制限をかける「プライマリーバランス」を意識しすぎた財政政策は、本来政府が持つ景気・経済成長のコントロール機能を、著しく低下させる。

すなわち、先ほどの例のような200万円の車を買うことは、プライマリーバランスの考えからは逸脱することとなる。毎月の50万円の収入の中でやりくりしないといけないためである。たとえ1,000万円の貯金があっても、その購入を躊躇させてしまう。
まさにこれこそが、小遣いの中でやりとりするという「小遣い帳レベル」といわれるゆえんである。もしくは「家計簿レベル」ともいえる。「プライマリーバランス」というもっともらしい言葉を使っているが、結局は収入に見合う支出を、という考え方に過ぎない。しかしそれは、支出に対する考え方を小さくし、視点が非常に短期的なものになってしまう。

もちろん、今の時点でもプライマリーバランスを超えた支出をしていて、プライマリーバランスが守られているわけではない。しかし、このプライマリーバランスの黒字化目標を執拗に主張する財務省の論調が、マスコミ・政治家を席巻し、その精神が刷り込まれていることが、国を危うくしている。すなわち、政府の支出を「悪」としてしまい、それを抑制する方向に働いている。それが国民経済を冷え込ませ、日本の景気が一向によくならない、大きな元凶の一つとなっている。

なんでもかんでも財政支出を増やせばいい、と言っているのではない。無駄な支出はやめるべきであり、また収入に見合う支出を心がけること自体は、国の信用として必要なことである。しかし、そればかり意識していては、国の長期的視点に立った、大きなあるいは継続的な支出(投資)に考えが至らなくなってしまう。時には、大きく借金をしてでも必要な支出は必要である。貯蓄があるならなおさらである。

日本の財政状態(B/S)

日本の財政状態(B/S)

今の日本の財政状態は、中央銀行も総合して見れば、貯蓄が十分にある優良な状態である。一方で、GDPの伸びはここ20年間で極めて低く、ほとんど成長していない。更に、政府支出を必要としている投資は、たっぷりある。
中国からの侵略がこれだけ進んでいるのに、防衛費はほとんど増えていない。自衛隊の駐屯地では、なんとトイレットペーパーを自腹で購入しているケースがあるほどである。また、教育・研究にかける費用はまさに未来への投資である。特に大学の研究費は削られる一方で、まったくもって日本の学力を落としている。日本の論文の提出数は中国に追い抜かれ、どんどん少なくなっている。

プライマリーバランスの黒字化、ということばかりに目がいくと、本来あるべきはずの政府の、景気及び経済成長のコントロール機能を著しく低下させる。この足かせを課したのは政府の閣議決定ではあるが、それを背後から仕向けたのは、間違いなく財務省である。財務省はこうした足かせを貸せることで、省の最も高い目的である「消費税増税」につなげたい。プライマリーバランスを黒字化すべく「収入」を増やすには、「消費税増税」しかない、という論調である。

田村秀男氏『財務省「オオカミ少年」論

田村秀男氏『財務省「オオカミ少年」論

財務省の大嘘については、信頼できる経済専門家がいろいろ主張している。テレビに出てくる財務省の御用学者の話は全く信用できないが・・・。
元大蔵官僚の高橋洋一氏産経新聞特別記者の田村秀男氏経済評論家の上念司氏などの主張があるので、興味のある方は是非見てほしい。

高橋洋一氏『国債の真実』

高橋洋一氏『国債の真実』

7.現状の政権方針と、今後のあるべき方向性

このように、「プライマリーバランス」は一つの考え方ではあるが、国の財政政策を、この考え方だけで決めていては、国は小さくなる一方となる。「支出を収入の範囲で」、という考えでは、結局成長の視点が欠け、「収入」を増やし国を成長させるという発想に至らない。

安倍首相は、先回の選挙において、プライマリーバランス黒字化目標を先送りすることを発表している。ようやくこの政策の見直しがされたと、ほっとしたが、先送りではなく、当面考慮しない、ぐらいのアナウンスが欲しい。

現状で日本の財政状態は健全である上に、今の国際情勢から考えて、日本が投資すべきことは山ほどある。積極財政を進めて景気をさらに良くしていけば、国民経済が豊かになり、税収たる「収入」が増えることとなる。それが健全な経済成長であり、政府の役割である。
訳のわからない精神論に近いものともいえる「プライマリーバランスの黒字化」は、概念として頭に入れておく程度にして、それよりも積極的な財政政策をすべき時である。

「支出」を減らす議論は簡単で誰にでもできる。しかし、それは国や企業を小さくすることに他ならない。もちろん無駄な支出は減らすべきだが、国も人も成長するうえで大事なのは、「収入」を増やすための投資や議論である。
政府の「財政政策」の支出は、単に家計の支出と同一視出来るものではない。マクロ経済に大きな影響を与え、景気そのものの前提を動かす力を持っている。それができるのは、政府であり、今、それを効果的に使う時と思う。

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コメント

    • ゆかり
    • 2018年 4月 11日

    昨日まさに、個人事業主と株式の代表取締役の両方の視点で先輩にアドバイスをいただいてる時に同じようなことを言われた。
    現在ある資金の中だけでやり繰りしようとしてる私の感覚では企業は伸びず、業績を伸ばす為の借り入れに対して躊躇しない方が良いと。
    プライマリーバランスだけをフォーカスされると国民が勘違いしちゃうから、こうやって説明付けて欲しいわ。
    勉強になりました。ありがとう。

      • てつ
      • 2018年 4月 12日

      収支だけでは小さくなるんだよねぇ。
      投資も重要!

    • ゆうじ
    • 2018年 4月 11日

    貿易戦争にもなり兼ねない国際情勢の中、真剣な財政政策が必要。今、まさに日本が世界の最重要国になりうるタイミングですよね。そんな時にモリカケのニュースばかり。確かに悪いものは悪い。きちんと決着すべきだが、優先順位を政府もマスコミも考えてほしい…。

      • てつ
      • 2018年 4月 12日

      ほんと、国会はひどいですね、、、
      辟易します、、、

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