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全電源喪失(ブラックアウト)~’18/9/6の北海道に見る日本の現状~

広範囲における「全電源喪失(ブラックアウト)」が起こることの恐怖と、2018年9月6日の地震に伴う北海道にみる日本の電力状況を見る

「感情論は判断を誤らせる」というのは、私のモットーの一つである。その最たるもののひとつとして、「原発反対」がある、と思っている。そんな中で、2018年9月6日の北海道地震に伴い、電力の脆弱さがあらわになった。前々から言われていたことである。その時の電源喪失(ブラックアウト)を通じて、電力の現状を見てみたい。

1.ブラックアウトとは

「ブラックアウト」とは種々の意味で使われるが、ここでは防災の意味で使われる「電源喪失」を取り上げたい。電源喪失と言っても、人為的なものではなく「故障」等に基づくものであり、更に広域に渡るものを言う。

発電の仕組み

発電の仕組み

電気の特性を簡単におさらいしておきたい。電気の発電の仕組みについては、電磁誘導によるものであり、コイルを物理的に回すことで、電力が発生する(過去記事:➡発電の仕組みと日本の現状)。この「物理的な回転」を、タービンを回すことで起こす。水力で行えば水力発電、火力による蒸気で行えば火力発電、原子力による蒸気で行えば原子力発電となるが、基本的な仕組みはすべて同じである。太陽光発電だけは、半導体の特性に基づく発電であるが、それ以外は電磁誘導に基づく発電であり、すべて同じ仕組みと言える。

ここで重要なのは、「電気は貯められない」ということである。「電池や携帯があるじゃないか」という人がいるかも知れないが、それらの微力な電力程度しか蓄電出来ないのが、現在の技術である。

こうした電気の流れは、水の流れと同様で上流あるいはどこかで止まれば、その下流は全て止まる。そして「電気は貯められない」ため、電気を失うことは、これらを失うこととなる。日本の技術において、こうしたブラックアウトが起こらないよう、どこかでトラブルがあればすぐに流れを補填し別のところから電気が流れてくるように駆使されている。この電源の安定性は、日本は世界トップクラスで構築している。

停電した札幌市内

停電した札幌市内

しかし、2018年9月6日の北海道の胆振(いぶり)地方を震源とする地震により、なんと北海道全域が停電となる「ブラックアウト」が生じた。東日本大震災の時でさえ、ブラックアウトは生じておらず、全体未聞の大事件であった。

ここで「ブラックアウト」と普通の停電あるいは東日本大震災時の「計画停電」とは違うことを留意したい。あくまで、技術的な事故により生じた大規模停電が「ブラックアウト」である。計画的にした停電は言わない。そして今回の北海道のブラックアウトの原因は、単に地震が原因という簡単な分析ではなく、「地震をきっかけにした複数事例に対応しきれない脆弱な発電体制にある」ということが浮き彫りになったと言えるようである。

北海道 高橋知事

北海道 高橋知事

これについての分析・対応は、今のところひどいとしか言い様がない。北海道知事はこともあろうに運用主体の北海道電力に対し「北海道電力の責任は極めて重い」という、まったく意味不明な事を言って、感情論をあおった。電力そのものの分析もされず、今の北電が如何に薄氷の思いで電力を供給せざるを得ない状況か、まったく考慮されていない。純粋な技術と経営の経済の話のはずである。

一時期は道内全域の295万世帯が停電する前代未聞のブラックアウトも、これがまだ残暑の厳しい秋であったため、なんとか事なきを得た。もしこれが冬であれば、記述するのも恐ろしい影響があったと思われる。停電というと、「暗い」「テレビが見られない」「冷蔵庫が使えない」等々考えるが、実際の影響は、現代社会においては水が出ないとのに匹敵するほどの重大なものである。

もっと言えば、今は水を出すのも電気で制御しているものもあるので、水も出ない可能性がある。非常用電源はそこまで大きな能力が無いし、それを備えた設備は特殊な場所に限られる。病院は点滴すらまともに出来ない。点滴も電気制御のためである。ガソリンがあれば暖められる、と思うかも知れないが、ガソリンを出すポンプが電気制御である。非常用電源を備えたガソリンスタンドがどこまであるのか。
電気が止まることは、現代社会において全て止まる、といっていい。また、もし冬であればそれに伴い復旧もどんどん遅れる。一日遅れれば、それだけ被害がすさまじく広がる。

電気の安定性は、日々の生活に直結する大問題ということを、しっかり知ることは重要と思う。ブラックアウトはあってはいけない現象なのである。

2.北海道におけるブラックアウトの原因

今回の北海道の全電源喪失について、その原因は単純な地震の直接被害ではなかった。

下記に詳しい原因がわかる記事を引用したので見てほしい。日経ビジネスオンラインの記事で、詳細は更にあるので、是非詳しくはリンク先で見てほしい。少し長いが、技術的な内容もあって非常に読み応えがある。広域停電という現象が、如何にギリギリのところで起こってしまうか、よく見えてくる。

北海道のブラックアウトの分析

(日経ビジネスオンラインからの引用 ➡日経ビジネスオンラインへ

では、なぜ今回、ブラックアウトが起きたのか。原因を端的に言えば、北海道電力・苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所(厚真町)の一極集中だ。

北海道のブラックアウト

北海道のブラックアウト

苫東厚真とまとうあつまは石炭火力発電所で、3機合計で定格出力が165万kW。道内最大規模を誇る。北海道電力によると、地震発生時、道内需要310万kWの約半分を苫東厚真とまとうあつまが賄っていたという。
電気は貯めることができない。常に需要(電力の使用量)と供給(発電量)を一致させておく必要がある。今回のように、需要は変わらないのに供給が減ると、過負荷の状態となり、周波数が低下する。
周波数の低下は、停電発生を意味する。各変電所に設置してある周波数低下防止装置(UFR)が、周波数が一定値以下になったことを検知すると、停電が他の地域に広がらないように系統を遮断する。停電しているところに電気が流れると通電事故が発生したり、設備が損傷してしまうためだ。一方、発電所も周波数の低下を検知すると、自動で停止し、系統から自らを切り離す(解列する)。
今回、震源地の近くに立地する苫東厚真とまとうあつま火力発電所は、かなり揺れたはずだ。地震発生からほどなくして苫東厚真とまとうあつま発電所は停止しただろう。その瞬間に、道内の供給は一気に半分に落ち込み、周波数が急激に低下した。
北海道は人口も少なく、電力需要自体が小さい。北電が発表した9月7日の最大需要予測は380万kW。例えば、東電の最大需要は4700万kW弱。北電エリアの10倍以上だ。仮に東電エリアで苫東厚真と同規模の発電所が停止したとしても、供給の急激な落ち込みにはならない。
地震発生が深夜で、電力需要が日中よりも小さく、他の発電機の稼働が少なかったことも、苫東厚真の脱落の影響度を大きくした。通常であれば、他の発電機が周波数の低下を検知して、出力を上げるなどの動きをする。だが、今回は苫東厚真の脱落分を回復させる手立てがなかった。
こうして苫東厚真とまとうあつま発電所の周辺部から、周波数の低下は徐々に道内に広がった。いくら系統を遮断しても、需給のバランスは取れず、ドミノ倒しのように停電エリアが広がっていった。同時に、発電所も連鎖的に停止した。こうして、北海道はブラックアウトしたのだ。

このように、多段的な事態の変化に伴い、「周波数の変化」という技術的な原因が広がってこの事態となった。日本の企業はこうしたことに対する対応をするので、更に改善を進めてくれると思う。しかし、技術的な部分だけでは限界が見えてくる。そもそもの経営姿勢であったり、発電そのものの大枠の脆弱性を見ないと、現場だけでは限界がある。

3.北海道の発電の状況

苫東厚真火力発電所

苫東厚真火力発電所

今回の事故は、先の記事にあるとおり、北海道電力の発電体制にあるといえる。苫東厚真とまとうあつま火力発電所の一極集中による発電体制は、前々から指摘があった。一方で、東日本大震災以来、全て止まった原発の一つであるとまり原発は、地震対策が着々と進み、稼働可能な状況に近づいている。稼働すれば大きな電力の供給となった。

とまり原発を止めていることは大きな負荷であることは間違いない。その中で、今北海道の発電所で起こっていることは、現在の発電所の深刻な「フル稼働」状況である。どうしてもそうなると、今動いているものに偏り、その補修や設備の交換が間に合わなくなってくる。しかも、北海道電力は非常に財務体質が弱い。「9電力体制」と言われるが、戦前は国営であった電力会社が分割・民営化され、それぞれでやることになった。海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の9つ(実質的には沖縄を加えた10電力)の体制となったときから、その地域性と電力供給の安定性は大きな課題であった。それに原発停止に伴うひずみが急激に来たことは、北電を大きく苦しめている。北海道は人口の割に電力供給の地域が他の地域とは比べものにならないほど広くどうしても高コストになる上に、収入が少ないためである。

4.原発を止めていることの弊害を正しく理解することの重要性

今回の地震に伴い、とまり原発が動いていればブラックアウトはなかった、という論が出ている。確かに素人目から見れば、その論は正しそうに見えるが、技術者でもない私がどうこう言う気は無い。原発に関しては、過去記事を是非見てほしい(過去記事:➡原発の現状から、電気に関する日本のエネルギー安全保障について考える)。

泊原発

泊原発(6年間止まったまま)

ただ、間違いなく言えることは、日本の電力供給がギリギリの状況であり、全く余裕がないと言うことである。これは地震がある前から言われていた。今年の夏はすさまじい暑さで、電力供給は綱渡り状態であったようである。東京電力の技術者は本当にヒヤヒヤしたということが言われている。マスコミがそうしたことを全く報じないことは、国民を馬鹿にしているというより、本当に危険にさらしいているという状態を、認識すべきである。そして、「ブラックアウト」という現象が身近にあることを理解し、その上での冷静な議論が展開されるべきである。また、電気の決定権は国にはほとんど無い。一義的には地方自治体の長が決める体制となっている。その責任者たる北海道知事のまったく感情論だけでまったく不勉強の対応は、殺人に等しいと言っていいと思う。

原発の反対を言うのはいいが、今動かせばすぐにでも電気の供給は余裕が生まれる。電気代も安く出来る。それでも止めるというのも、一つの議論とは思う。しかし、実態を隠すこと、若しくはそれから目をそらすことは許せない。今まさに電力の現場は疲弊しきっている。

そしてもう一つ隠されている事実を指摘しておきたい。日本は原発を止めていることにより、多大に余分なコストを「液化ガス」「石油」に垂れ流している。消費税1%か2%増税した位のコストが、実は既に生じていて払っているのである。目の前の原発を動かせば、それを払わなくていいのに、である。

5.日本が取るべき道筋

原発に対する反発は理解できるし、自分自身、やはり原子力の怖さは感じる。しかし、どう考えても、今の感情論むき出しの、あるいは明らかな特定勢力の意図を持った原発反対運動に、全く賛成できない。

現状では原発をフルに利用して、それによって得た利益を、『 原子力に頼らず、更に地球環境にも優しい発電方法を強力に研究していく 』、という姿勢こそ、日本がすべき方向性と思う。事故があったからそれをやめるのではなく、事故を次へのステップにするための課題としてとらえて、進めてほしいし議論がそうあってほしい。それこそが、技術先進国足る日本の進むべき道であり、世界にも国内にも誇れる姿勢と思う。

今回の「ブラックアウト」は衝撃だった。地域全体で電気がなくなることは、そのまま人命に直結する。とにかく感情論ではなく、技術的な冷静な議論を望みたい。決して北海道だけの議論ではない。日本全体での状況であり、しっかり見つめないと行けない問題と思う。

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