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「囚人のジレンマ」とは?

囚人のジレンマ①

経済学の「ゲーム理論」にある「囚人のジレンマ」から見る人間の行動分析

ミクロ経済学で出てくる「ゲーム理論」とそれにまつわる「囚人のジレンマ」を取り上げたい。学んだときには「何の話だ?」と思ったが、なかなか面白い考え方でなので、紹介したい。ほんのさわりの部分でしかなく、これより深いところは本当に難しいが、知識として是非ご覧を。

1.ゲーム理論とは?

ジョン・フォン・ノイマン
ジョン・フォン・ノイマン

ゲーム理論(game theory)とは、アメリカの数学者ジョン・フォン・ノイマンが1944年に書いた著書「ゲームの理論と経済行動」により確立したものである。元来は、経済学の一つの理論としてのものだったが、人間の行動について分析し明示するその考え方は、経済学にとどまらず種々の分野で用いられている。

ゲーム理論は、

「利害関係を持つ相手がいる状況で、自分と相手の利益を考え、最適な行動を決める」ための思考法

とここでは定義したい。相手がいる場合の個人の行動を分析したものである。ゲーム理論の対象とするのはあらゆる「戦略的状況」で自分の利益を考えて行動する場合のパターンを考察する理論である。その範囲は経済学の規定する世界のみならず、種々の場合に応用が利く。そのため、経営学、政治学、法学、社会学、人類学、心理学、生物学、工学、コンピュータ科学などでも利用される幅広い考え方である。

ノイマンが発表した「ゲーム理論」の論文により、今まで不可能と思われていた「人間の意思決定が相互に影響をあたえることを数学的に展開できる形」にすることに成功した、と言われる。それほどに応用の利く理論といえる。

2.ゲーム理論とナッシュ均衡

ゲーム理論は発表された6年後に大きな進化を遂げる。それがアメリカの天才数学者と言われるジョン・ナッシュ氏による「ナッシュ均衡」の発表である。このナッシュ均衡を具体的に見てみたい。

ジョン・ナッシュ氏
ジョン・ナッシュ氏

ナッシュ均衡とは定義上は、下記の通りとなる。

ナッシュ均衡とは、他のプレーヤーの戦略を所与とした場合、どのプレーヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせである。ナッシュ均衡の下では、どのプレーヤーも戦略を変更する誘因を持たない。

Wikipediaより

言葉だとわかりにくいので、具体的に見てみる。

最も単純化した例で、プレーヤーが2人で取れる戦略の選択肢が2つある場合を考える。両者は2つの戦略のどちらかを選ぶ。プレーヤーを企業A、企業Bとし、戦略を①、②とする。ここで重要なのは、お互いが協力することはない、という前提である。それを「非協力ゲーム」と言い、ナッシュ均衡を考える上では「非協力的」であるということで人間の行動を考察する。

その両者が戦略を考えた場合の、両者の利益(便益)が以下の場合を考える。

利得表①
利得表①

上記の表を「利得表」という。この利得表の構成によって、人間の決定を考察する。

まず企業Aにとって、戦略①と戦略②を考えると、企業Bが戦略①をとっても戦略②をとっても、企業Aにとって大きな利得が得られるのは、戦略②を取ったときとなる。よって企業Aは戦略②を取ると考えられる。
一方、企業Bにとって、戦略①と戦略②を考えると、企業Aが戦略①をとるなら企業Bは戦略①を取る方がいい。しかし、企業Aが戦略②をとると、企業Bの利得が大きくなるのは戦略②となり利得は「5」となる。
ここで、先に企業Aで考察したとおり、企業Aは戦略②を取る。となると、企業Bは当然戦略②を選ぶことになる。すなわち、ここで「均衡」が起こる。

利得表②(ナッシュ均衡)
利得表②(ナッシュ均衡)

このように、お互いに最適反応を取った組み合わせが均衡している組をナッシュ均衡という。このように両者の戦略が導き出される。
ここで重要なのは、この「利得表」である。利得表の利益によって選択は大きく変わってくる。ナッシュ均衡自体になり得ない「利得表」もある。

しかし、このようにナッシュ均衡があったとしても、社会として最適な解になるとは限らない。「非協力ゲーム」の中で、お互いが相手の戦略を考慮して行動した結果、実はどちらも損をする場合がある。それが「囚人のジレンマ」である。

3.囚人のジレンマとは

囚人のジレンマとは、ゲーム理論の最も典型的な事例としてよく扱われる。

囚人のジレンマ①
囚人のジレンマ①

上記の利得表を見てほしい。ある事件で逮捕された囚人が2人(A及びB)がいる。どちらも別々に尋問され、相手がどのような戦略をするのかは分からない。
そんな中で、どちらか片方が自白すれば、自白した方は無罪で自白された方は懲役10年となり、どちらも自白すれば両者とも懲役5年、どちらも黙秘すれば懲役2年のケースを考える。

このケースで考えると、両者は自白をすることとなる。なぜなら、両者とも黙秘すれば刑期は軽くてすむのだが、その状態でどちらかが自白をすると一気に一番長い刑期の10年となってしまう。とすれば、自白をした方がリスクは小さい。それは囚人Aにも囚人Bにも当てはまるため、戦略として両者とも「自白する」を選ぶのである。

囚人のジレンマ②
囚人のジレンマ②

しかし、両者が話し合うことが出来れば、全体で見た場合に両者の刑期の合計が最も短い「2年と2年」となる「両者とも黙秘」になるはずである。しかし互いに「非協力的」な状況下では、このようなことが起こりうる、という説明ができる。

このような状態を「囚人のジレンマ」という。

囚人のジレンマを定義すると、

「お互い協力する方が協力しないよりも良い結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる」

という状態を言う。このように結果として人間の行動が、必ずしも最適にならない状態を数式を用いて説明したのが「ゲーム理論」である。

4.「非協力ゲーム」と「協力ゲーム」と

囚人のジレンマは最も典型的な例として、ゲーム理論で取り上げられる。これに類似した場面はいろいろなところで起こりうる。

囚人のジレンマはあくまで「非協力ゲーム」を前提にした状態だが、これを「協力ゲーム」に変えれば結果は異なってくる。その時の場面を「協力ゲーム」にするのか「非協力ゲーム」にするのかは、その時による。例えば、企業のM&Aのようにお互いが合併する場合などは、典型的な「協力ゲーム」といえる。一方で、企業同士の競争による値下げの戦略などは、典型的な「非協力ゲーム」といえる。

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ゲーム理論では「利得表」によって人々の行動を数学的に明示した。そこに「協力ゲーム」「非協力ゲーム」という要素を入れることで、また大きく選択の仕方が変わってくるのである。

またゲーム理論には多種にわたる考え方があり、それを数式で表していく。それにより、種々の状況下での人間の行動の分析を統計的に導いていく。戦略を単純に2つで考えずに複数の戦略を組み合わせて考える「混合戦略」、寡占状態の企業の生産量を分析した「クールノー競争」における「クールノー・ナッシュ均衡」など、種々の考察がなされ応用されている。

5.ゲーム理論と「囚人のジレンマ」を見て

このゲーム理論は、まだまだ奥が深い。私程度の理解では全く理解したとは言えない。興味のある人は、積極的に自分から学んでいかないと難しい。

ただ、このような学問があり分析があることは知っておくことは有用と思う。「囚人のジレンマ」のような状況は実際に良く生じる。そんなときの「利得表」を意識することで、また違うアプローチが出来るかも知れない。

冒頭にも記述したとおり、ゲーム理論は経済学にとどまらない。経営学、政治学、法学、社会学、人類学、心理学、生物学、工学、コンピュータ科学などでも利用される幅広い考え方で、実際に応用されているものである。
興味のある人は是非お勧めしたい。学ぶ価値のある分野と思う。私はそこまで出来なかったが・・・。

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