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小遣い帳レベルの「プライマリーバランス黒字化」という方針を、日本経済の現況から考える

税収・歳出・公債発行額の推移

小遣い帳レベルと言わざるを得ない、「プライマリーバランス黒字化」という政府の目標について、現状の日本経済の現況から考える。

「プライマリーバランスの黒字化」という政府の目標がある。これを、特に財務省が前面に押し出して、政策の議論を進めることが多い。基本的には、相変わらずの「財政健全化」の象徴のように主張している。しかし、マスコミがなかなか取り上げないが、現状でのプライマリーバランスの黒字化という目標は日本を滅ぼす、という主張もある。私もその考えに近い。
そのプライマリーバランスの黒字化について深く見て、現状の日本経済から考えてみたい。

1.プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは

プライマリーバランス(Primary Balance)とは「基礎的財政収支」のことで、簡単に言えば国の収入から国の支出を引いた差し引きの額である。
ただし国の借入(国債)に関する収入・費用はこの計算から除く。すなわち、プライマリーバランスの計算上の収入は純粋に国の税収であり、費用は国債の利払いを除いた支出となる。

プライマリーバランス推移
プライマリーバランス推移

日本のプライマリーバランスは、バブル経済の頃をピークに下がり続け、マイナスのまま推移している。安倍政権で改善が見られるようになってきた状態ではあるが、実に30兆近いマイナスとなっており、それはそのまま国債の増加となっている。

2.プライマリーバランスの黒字化目標への政権の取り組み

プライマリーバランスの黒字化の議論は、小泉内閣の時に「骨太の方針」の中で言われ、その黒字化の目標を2011年として掲げられた。しかし、その後も不況から抜けられずプライマリーバランスはマイナスのまま、日本の国債残高は積み上がっていった。
どの内閣もプライマリーバランスの黒字化は目標とはしていたが、その実現はほど遠い実情の中で、2010年の当時の民主党政権の菅直人内閣でプライマリーバランスの黒字化を「閣議決定」で行い、政府の継続的な目標となっている。
これが今も続いた状態で、政府の主張が組み立てられている。

字化の目標の目的は、言うまでもなく「財政の健全化」である。普通に考えても、収入以上の支出をし続けることがいいことではないことは、簡単にわかる。一方、もしそれをしなかったときのデメリットは、借入金が増えていき信用を失う、とういことである。

3.プライマリーバランスの黒字化の議論の危うさ

財務省やマスコミやテレビに出るような経済学者の主張は、「プライマリーバランスのマイナスはいけないから、政府は支出をへらすべき」とこぞって主張している。その上で特に財務省は、だから増税、特に消費税の増税、ということを主張している。政治家も相当な勢力がそちら側で、ほとんどといっていい。この議論に対しては、2つの点でまったくおかしい

1つ目は、もともと日本の財政状態は良好であり、議論の前提にある「財政危機」そのものが嘘であるという点である。「国の借金が危機的状況にある」という前提は真っ赤な嘘である、といことである。これらの説明は、過去の記事(➡「国の借金」の嘘と実情「国の借金」にまつわる嘘を、資産(B/S)の観点から斬る!)を見てほしい。

2つ目目は、確かにプライマリーバランスがマイナスの状況はいいものではないが、だからといって、政府支出を減らせば、あるいは増税すれば解決という単純な問題でははない、という点である。確かにスローガンとしてのプライマリーバランスの黒字化はあまりに当たり前のことで非常に簡単だし主張としてはわかりやすい。しかし、これだけで議論のスタートとするのは単純化しすぎであるし、長期的な視点がまったくない。あえて言えば、いわゆる家計の「小遣い帳レベル」での議論にしか見えない。
「収入が少なければ、支出を減らしましょう」というあまりに単純かつ危険な思想に基づいて進めば、国は滅ぶ。会社で考えてほしい。会社の業績が悪い時に、費用の削減しか言えない会社が、その後成長するだろうか。費用の削減自体を否定しないが、そればかりやっている会社は、どんどん縮小するだけである。まさに日本の状況と同じ状況になる。「費用を削減しつつ、売上を増やす」という考えがなければ、組織は全体で沈んでいくだけである。

4.プライマリーバランスを良くする、ということ

プライマリーバランスを良くするには、収入を増やすか支出を減らすしかない。しかし、政府という巨大組織には、家計とは全く違う考えが必要である。
下記は国の収入及び支出の推移である。

税収・歳出・公債発行額の推移
税収・歳出・公債発行額の推移

政府が収入を増やすとなれば、税収を増やすことである。それは「増税」という手法しかない訳ではない。逆に増税すれば景気の後退を招き、収入が減ることがある。景気が悪いときには景気を良くすることが経済の王道であり、景気が良くなれば自然に税収は上がる。
増税はうまくやらないと景気に悪影響を与えて全体を下げる。消費税などその典型である。

「消費税をあげて財政再建を」などと主張するのは、まるっきりおかしい。第1に財政は良好であるし、第2に消費税を上げたら他の税収が下がる上に、そこから不況に陥る。過去の消費税増税を見ればそれは明白である。消費税が安定財源、というのは嘘である。景気にものすごい影響を与えるし、それは他の税収にも大きく影響する。いいタイミングで増税すればいいが、最も慎重にあつかうべき税金と思う。

5.「歳出削減」ということの影響

プライマリーバランスの黒字化の議論で、「歳出削減」がある。これは、増え続ける一般会計の支出を見直すものである。

一般会計歳出 推移
一般会計歳出 推移

政府の歳出は、確かに膨れ上がってきている。添付の表を見てほしい。特に社会保障費の増大は顕著である。

では、単純に歳出を絞ればそれでいいのかと言われれば、答えはノーである。ただ闇雲に減らしたら数字上の歳出の金額は減るかも知れないが、同時に歳入たる税収を減らす。なぜなら、政府の歳出を減らすと言うことは、誰かの所得を減らすのであり、それが国内業者であれば、日本のGDPを押し下げる。これこそ経済の大原則である「三面投下の原則」である(過去記事 ➡三面等価の原則と経済学)。従って、政府支出の減少は、当然景気を冷え込ませると同時に、それに伴い税収を減らすため、プライマリーバランスを悪化させる。政府による支出の減少の影響は、、一般の企業や家計のような単なる「費用の削減」ではないのである。

政府の平成19年度の歳出の内訳は次のグラフの通りである。

平成29年度 歳出予算
平成29年度 歳出予算

政府の歳出の削減も、上手に・効果的にやらないといけない。削れば景気に影響するし、国としてどこに力を入れるかは、非常に重要である。
ところが、今、政府で行われている議論は、どこかを増やしたら同額だけどこかを減らす、という信じられないレベルでの議論が横行している。まさに小遣い帳レベルの発想である、と言わざるを得ない。例えばの議論だが、社会保障費がふえるからその分どこかを削る、という信じられないくらいの単純な発想ですすめられているというから、本当に唖然とする。

政府の支出は、そのまま国そのものの造り方である。国防費で言えば、この国際情勢で増やさなければ中国に本当に飲み込まれる。医療費で言えば、高齢化だから増やすという単純な問題ではなく、今の高額医療制度のあり方や薬漬けで単価が高騰している医療費のあり方を議論すべきである。
決して単年度だけの議論ではないはずだし、単年度で議論して意味があるのだろうか?

国の支出は、国そのものの行く末を見据えた、長期・中期の視点に立った使い方が必要なのである。にもかかわらずプライマリーバランスという子供でもわかる指標ばかりを振りかざして主張している人達は、全く理解に苦しむ。しかも、財政問題(国の借金)はほとんどないにもかかわらずである。

6.日本の現状とプライマリーバランスの黒字化目標を考える

結論として、現状でプライマリーバランスの黒字化目標はまったくナンセンスで、今の時点では、「延期」ではなく「撤回」すべきである。変な誤解を生むだけで、百害あって一利なしである。もう一つ言えば、消費税の増税もだが・・・。

プライマリーバランスの黒字化自体は、確かにすべきことと思われる。しかし、「黒字化」は望ましい姿と言うだけであり、投資が多ければ赤字となることは普通にあり得る。更に、日本は今、デフレの状態であり、まったく景気が安定していない。今すべきことは、とにかくデフレから脱し、経済を安定成長の軌道に乗せることである。
プライマリーバランスの黒字化は、もしできなかったらどうなるか。答えは、「国債の信用がなくなり、長期金利があがり、日本が破綻する、おそれがある」という、相変わらずの悲観論である。まったく現実味がないし、なぜかここだけ長期の視点なのである。だいたい、「破綻」という言葉を安易に使うような論調にはろくなのがない。全く根拠に欠ける。
確かに国債依存が強すぎるのは良くないが、今の状態で考えることではない、と言わざるを得ない。

よく言われることだが、病気になって苦しんでいるときに、病気の原因が体の鍛え方が悪かったとトレーニングさせる人がいるだろうか?病気になったら、まず治療である。デフレの状態はまさに経済の病気であり、早くこれを抜けなければならない。これを抜けた上で、健全化の議論があるべきである。
しかも日本はもともと債権保有国であり財政状態は良好なのである。プライマリーバランスの黒字化は確かにすべきことではあるが、今、その議論をすべき時ではないと断言できる。自民党の安藤裕議員の勉強会から、プライマリーバランス黒字化の撤回を求める提言も出されている(2017年7月)。デフレ・世界情勢の激変による領土の危機の時に、お金をどのように有効に使って明日の日本のためするのか、そういった議論が活発に行われることを切に願うし、しっかり見ていきたい。

 

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コメント

    • ゆかり
    • 2018年 2月 03日 4:52pm

    個人事業主だけど長く続けてると波があるわけで、そんな中、売り上げが落ちてきたからと人件費や細かい支出を減らすことは逆に危険というか。
    店内を飾る装花をやめたり、原価を下げることを考えるよりも技術の向上をまず考えて正当な対価をきちんと取れるようにしていかないと。
    常に売り上げを伸ばす為の投資をしていかないと結局長い目で見ると尻すぼ
    みになっていくのが分かるからね。
    政府も日本の伝統や技術を磨く環境を整えて国としての収益を伸ばしていく努力を細部までして欲しい。
    先日、市役所管轄の仕事に触れる機会があったけど、無駄が多すぎる。
    古い人間が新しいアイデアを採用せず、同じぬるま湯に浸かってるシステムをいい加減切り替えて欲しい。

      • てつ
      • 2018年 2月 04日 8:27am

      ほんと言うとおりだね。費用を減らすことばかり考えては、人間も国も小さくなるだけだわね。
      ゆかりちゃんの言うとおり、「日本の伝統や技術を磨く環境を整える」というのは大賛成っす。

    • ゆうじ
    • 2018年 1月 29日 12:20am

    おっしゃる通り!デフレ脱却の光が見えてきた時に、増税&歳出削減はナンセンス。補正予算審議が始まるので、モリカケなどに時間を費やさず、日本を良くする検討をしてほしいですね。

      • てつ
      • 2018年 1月 29日 9:46pm

      モリカケをやっている連中は、おそらくそれ以上のことは考えられないのでしょうね。
      期待するだけ無駄なので、国会そのものより政策をどんどん進めて国力を高めてほしいです。

      とはいえ、プライマリーバランスの考え方はなかなか手強そうですね。「借金による破綻論」と同様の、洗脳の強さを感じます。
      確かに、サラリーマンで言えば「小遣い制」に近い考え方で、資産規模を無視して「これ以上は使ってだめ」という上限を勝手に作るものです。
      日本人には定着しちゃっているように思えます・・・。

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