- 2018-4-13
- 技術
- 4 comments
原発のメリット・デメリットを分析し、日本のエネルギー安全保障としての電力供給について考える
「感情論は判断を誤らせる」というのは、私のモットーの一つである。その最たるもののひとつとして、「原発反対」がある、と思っている。確かに、福島第一原発の事故の時の恐怖は、今でも忘れられない。しかし、まさかその後、それを恐れてという理由だけで、原発がすべて止まる事となるとは思わなかった。
今回まとめたのは、福島第一原発の事故そのものではなく、現状の原発の状況を見て日本のエネルギー事情について考えてみた。遠いようで生活に直結する問題である。是非見ていただきたい。
ページ目次
1.電気の特性と重要性
ページ目次 [ 開く ]
電気の特性から簡単におさらいしておきたい。電気の発電の仕組みについては、電磁誘導によるものであり、コイルを物理的に回すことで、電力が発生する(過去記事:➡発電の仕組みと日本の現状)。この「物理的な回転」を、水力で行えば水力発電、火力による蒸気で行えば火力発電、原子力による蒸気で行えば原子力発電となるが、基本的な仕組みはすべて同じである。太陽光発電だけは、半導体の特性に基づく発電であるが、それ以外は電磁誘導に基づく発電であり、すべて同じ仕組みと言える。
ここで重要なのは、「電気は貯められない」ということである。「電池や携帯があるじゃないか」という人がいるかも知れないが、それらの微力な電力程度しか蓄電出来ないのが、現在の技術である。すなわち、発電した電気より使う電気が少なければどうなるかと言うと、まさに土に捨てる事になる。地球は「電位ゼロ」と言われ、電気をそこに落とせば電気は無くなる。
では、発電所は何を基準に作られるか、というと、ピーク時に耐えうる設備を用意することとなる。そして日本の電力消費量は年々増えている。添付のグラフを見てほしい。
グラフは電力の発電量の推移だが、ほぼイコールで消費量の推移と言ってもいい。内訳については後述するので、ここではてっぺんの合計の推移を見てほしい。
私が生まれた頃の1970年頃は4,000億kwhであった電力量は、経済成長と共に増え続け、2007年頃の10,000億kwhをピークに推移している。東日本大震災後に原発を止めたこともあり、その後は減少しているが、それでも2015年で9,000億kwh程度ある。40年前に比べたら倍近い電力を消費している。
電力が増えた背景には、もちろん経済成長によるものだが、それはすなわち電化製品(家庭用・工場の製造設備)そのものが大きく増加している事が言える。人間がやっていたことを、電気という動力を利用してどんどん機械化していった。その結果が電力量の増大であり、まさに技術の発展に伴う当然の成り行きと言える。
電気を失うことは、これらを失うこととなる。また、電力の消費は当然家庭用だけではない。工場・病院・役所、どこでも電気なしでは一日も持たない。電気を安定的に供給することは、国の運営上も国民の生活上も、不可欠のインフラである。また、先に記述したとおり、電気は貯めることが出来ない。供給が止まれば、すぐに電気は来なくなるのである。そうなれば、瞬時に生活に影響するだけで無く、人命にも関わってくる。国民に取って必要不可欠なインフラなのである。
電気を含め、国の根幹をなすエネルギーを安定的に確保する考え方として言われる「エネルギー安全保障(energy security)」は、非常に重要なのである。
2.日本における発電方法の変化と、原発の現状
ページ目次 [ 開く ]
もう一度、日本における発電量をその発電方法別に見てほしい。
このグラフは非常に重要なことを、いくつか示唆している。
・東日本大震災(2011年)以降、それまで順調に伸ばしていた原子力発電はいったん全部停止させ、その発電量は激減している。
・発電方法は、①水力中心、②石油による火力発電の増大、③石炭による火力発電の増大、④原子力発電の増大、⑤原子力を使わずにLNG、石炭に頼る体制、と変化している。
このように、発電の方法は時代の技術と共に変化してきた。電力が安定しない頃には、最も安定しクリーンでもある水力発電が主流であった。しかしそれではまかないきれず、火力発電としての石油・石炭・LNG(液化天然ガス)が用いられてきた。しかしそれも地球温暖化等を考慮したときの化石燃料への批判が高まると同時に、原子力発電技術を高めていった結果として、原子力発電の比率が大きくなっていった。
それが一変したのが、平成23年(2011年)の東日本大震災である。リアルタイムで見ていたあの瞬間は一生忘れないだろう。外から見る原発は全く変わらない映像だったが、あんなに緊張してニュースを見たことはない。そして、水素爆発で建物が飛んだ時は、日本が終わったと本当に思った。
それ以降、日本だけでなく世界中で原発に対する風向きが一変した。原発の安全神話が崩れ、しかも先進国の日本で大きな事故となったことの衝撃は大きかった。
しかし、その後の議論はどうも首をかしげる物が多い。情報が出るにつれ、原発のメルトダウン(炉心融解)の原因は、原発そのものではなく、電源の喪失であったことが明白であるにも関わらず、「原発は危険だ」というヒステリックな論調ばかり目立つ。議論が種々ありここでは詳細は割愛するが、少なくとも原発事故が起こった「福島第一原発」と同等の津波をかぶった「女川(おながわ)原発」は無事だった。それを見ても、すべての原発が駄目だったわけではない。にもかかわらず、すべての原発を総点検するという名目の下、日本の原発はすべて停止となり、そこから生まれる電力のすべてを日本は失った。添付の図は電気事業連合会が作成した、2016年11月時点の日本の原発の稼働状況である。
そして今では、知識もない自治体の長が世論の流れで判断し、その結果として原発が動かずにいる。本当にこの状況は国にとって正しいのだろうか?原発について詳細に見てみる。
なお、あえて付け加えておくが、原子力発電は最初の核燃料以外の燃料を必要としない。設備は整っている状態であり、燃料である核燃料も待機している状態で止めている。動かせば、即時に電力を供給できる施設が上記の図の黒い丸であり、37基もの原発プラントが止まったままである。
3.原発の経済性
ページ目次 [ 開く ]
添付の図は、発電方法別の発電コストを示したものである。原子力発電に注目すると、やはりコストは安いと言える。
ただし、計算の仕方はいろいろあるので、一つの目安として見るべきものである。原子力による発電コストは最も低い。いろいろ議論はあるだろうが、他の発電方式に比べ、非常に優位な方法であることは見て取れる。
コストから見た原発の計算については、いろいろな計算方法がある。特に「廃炉」などがある場合には、その処理費はまったく上限がない。そうしたものも加味すれば上記の表とは全く違った計算も可能である。しかし、普通の運転に基づく計算であれば、上記の通りとなる(正確には上記の計算にも「政策経費」という形で、異常対応用の金額が含まれている。)。「事故」を前提にした計算をするというのなら、他の発電コストも全く変わってくる。
なお、お金以外のコストという面で、化石燃料による発電と原発とで決定的に違う面がある。原発は原子力により水を沸騰させ、その蒸気で発電する。その原料はウランなどの核資源であり、その力は半永久的に維持されていく。しかも他の発電方法と異なり、二酸化炭素は全く出さない。原発により半永久的な超大量のエネルギーを手に入れることと、更にそのエネルギーは二酸化炭素をまったく出さないことは、あたりまえではあるが非常に重要なポイントである。
4.福島第一原発の事故のから見る、原発の安全性
ページ目次 [ 開く ]
原発の安全性について、大きな疑義が生じている。その原因は、東日本大震災における福島第一原発での原発事故に起因することは明らかである。これにより、原発に対する危険性が日本国民全般に大きく浸透し、もともとあった漠然とした不安が顕在化し原発アレルギーとなっているように思う。ここでは、福島第一原発の事故がなぜ起こったのかについて見てみる。
原発事故の原因については、種々のことが言われる。また、事故から7年経った今でも、まだ隠された情報があるのではないかという疑念もあり、確定的なことは言えない。それ自体が異常とは思うが・・・。しかし、情報はいろいろ出てきている。
十分な情報開示がされず、しかも私のような素人が判断すべき事ではないことは重々承知だが、私なりにいろいろ調べた結果で言えば、メルトダウンまで起こった事故の原因は、「電源の喪失」としか言い様がない。あれだけの地震であったが電源さえあれば、原発事故は起こらなかった
福島第一原発では14時46分の地震の直後は緊急停止し、その後、補助のディーゼル電源により冷却機関は正常通り動いていた。事態が一変したのは、その1時間後に来た津波により電源がすべて喪失してからである。
電源を喪失したことにより、超強力な熱を発し続ける核燃料を冷やすことが出来なくなった。そして上昇し続けた熱により、炉心までもを溶かす「炉心融解(メルトダウン)」を引き起こした。すなわちこの事故は発電中の事故ではなく、停止している間に起こったものであり、電源を喪失するまでは正常のオペレーションの下にあったのである。
その最も明確な証拠が、福島第一原発よりも震源に近かった「女川(おながわ)原発」が無事であったことである。津波は13m以上あり、ほぼ福島第一原発と同様であった。にも関わらず、福島第一原発のように電源喪失が起こることはなく、正常に核燃料の冷却は行われた。
ではこの違いはなぜ起こったのか。それは、その対策が二つの原発で明確に異なっていたからに他ならない。今回は簡単にしか触れないが、まずもってしっかり明確にしておきたいのは、福島第一原発は東京電力の発電所であり、女川原発は東北電力の発電所であることである。
福島での電源は、その位置等からもともと危険性が指摘され続けていたのに、東京電力はその対策をしてこなかった。一方で女川原発はその作成当初から津波の検討をしっかり行い、根本的な構造からその対策を施している。
対策の手段はそれぞれいろいろあるようだが、とにかくここで言いたいのは、
『 事故の原因は「原子力発電」そのものではなく、「福島第一原発における東京電力の取ってきた安全対策」である 』
ということである。本来追求すべきは、東京電力がなぜそのような状況を放置していたか、であり、その責任と対策について議論すれば、少なくとも今回の地震と同様のことがあっても対応できることとなる。それがなぜ「全原発の停止」などという結果に至り、いまだに再稼働させないのか、合理的には全く説明できない。感情論でしかない。
一方で、なぜかそうした東電の体質について追求する話は出てこない。また、ほとんど報じられない事実として、2点ある。それは、
② 漏れた放射能の量は、非常に微量であること。
①について、「甲状腺がんが増えた」などという報道があったが、全く無根拠に近く、もともとそんな調査をしたことがないのに福島だけ強調したものであり、全くわかっていないのが現状である。②についてはいろいろな切り口があって議論は錯綜しているが、明らかに誇張やねつ造まがいのものが多い。私の信用する情報から見れば、電源が戻った現在で大きな放射能漏れはほとんどない。メルトダウン時の瞬間的な漏出は大きかったにせよ、その後はほとんど漏れていない。
私は、原発が安全だから安心、といいたいわけではない。福島第一原発の事故の恐怖はまったく忘れていない。しかし、だからといって全部が悪いという議論は全く理解できないし、冷静な判断とは思えない。自動車での死亡事故は後を絶たないが、その結果、自動車を禁止する、という議論になるだろうか?
福島第一原発の事故について、その原因をつぶさに見て合理的に判断すべきである。にもかかわらず、明らかに意図的としか思えない情報の隠蔽があることを含め、今の議論のあり方は非常におかしいと思う。感情論だけで判断していては、全体を見誤り危険である。原発の影響はエネルギーの観点から非常に重要であり、国民生活に直結するとういう正しい理解があった上で、原発の今後を考えたい。
5.エネルギー安全保障(energy security)の観点からの原発
ページ目次 [ 開く ]
もう一度日本における電力の発電別内訳を見てほしい。2011年の原発事故の後に、原発での発電はほぼゼロとなった結果、LNGや石油と行った化石燃料による火力発電が一気に増大し、なんとか電力をまかなっている。ここで「なんとか」と述べたのは、本当に薄氷の状況で、ぎりぎり停電が起こらず来ていることが実態であるためである。実際、2017年の冬は非常に危険な状態で、電力はギリギリであったようである。
また、このようにLNG等が増えたことは、当然その輸入も増える。LNGとは「液化天然ガス」で、日本の場合「パイプライン」によるパイプでガスを輸入できない。そのため、ガスをマイナス160度で冷やして液化させ、その状態にして輸入しているものである。当然コストは相当かかる。そうしたLNG等の輸入の増大により、割安な原発に比べて発電コストは圧倒的に上がっている。この計算も種々あって議論はまた言い合いになるが、コストが上がったことは事実として間違いないだろう。実際に事故から5年間で14兆円もの金額が余分にかかっているという計算があるし、それがおそらく実態と思われる。核燃料は、いったん稼働すれば燃料費はゼロである。それと比較すれば当然大きな差が出る。しかも、二酸化炭素を吐き出すことがないエネルギーなのである。
日本のエネルギーについて、その自給率を各国と比較したグラフが、添付のグラフである。明らかに圧倒的に低い。もちろんすぐにそれが停電を引き起こすとは言わない。しかし、第二次世界大戦の原因は、石油を止められて困窮した日本がどうしようも無くなったため、という歴史の事実を思い出しておきたい。
原子力は一度手にすれば、他国に依存する事無く半永久的にエネルギーを出し続ける。しかも二酸化炭素を吐き出すことがない。これこそ「夢のエネルギー」と言われたゆえんである。
電気は生活に直結している。その現実を良く知った上で、原子力のメリット・デメリットを理解し、原発の議論を見るべきだろう。
6.各国の動き
ページ目次 [ 開く ]
では、福島原発以降で各国はどのようになっているか。結論から言えば、原発は増え続けている。ドイツなど例外的に「脱原発」を言っている国はあるが、基本的には原発のメリットは大きく、技術も大きく向上しているので各国での建築は進んでいる。また、ドイツも自国での原発は大きく縮小傾向にあるが、その隣のフランスから電力を買っている。そしてフランスは、電力の70%以上を原発でまかなう世界一の「原発大国」である。そして、建設が著しいのが中国である。その膨張戦略である「一帯一路」戦略にも深く関係し、今後200基は作るという計画まである。
中国は次の覇権をにらみ電気自動車を強力に推し進めているが、そのための電力は今の発電では全く足りないと言われる。その電気を生み出す上で、結局はなんらんかのエネルギーが必要であり、それが化石燃料では意味がないため、当然原子力が利用されるのである。原子力エネルギーは、非常に安価で安定的な電源が得られる上に、他国に依存する事がないため、安全保障上も非常に有効なのである。
7.日本が取るべき道筋
ページ目次 [ 開く ]
このように見てみると、原子力による発電のメリットの大きさが理解できる。一方、そのデメリットである「メルトダウンのリスク」については、議論が種々あるが、少なくとも福島第一原発の事故、に限って言えば、明らかに東電の対策についての批判や対策がなされれば、十分対応できる。
ただし、そのデメリットは、単なる事故のことだけではないだろう。やはり感覚的に、核燃料という物は1000年以上も放射能を出し続け全く制御できる物とは思えない、という漠然とした不安感は私も強く持っている。出来ることなら、使いたくない手段とは思う。
しかし、だからといって今すぐやめるという議論は全く建設的とは思えない。それをやめることにより、多大の金額をロスするし、それにより国力が、国民生活のレベルが下がっていく。しかも他国はどんどん建設しているのである。電気の貧困はそのまま国民生活の貧困となる。
どう考えても、今の感情論むき出しの、あるいは明らかな特定勢力の意図を持った原発反対運動に、全く賛成できない。
であるなら、現状では原発をフルに利用して、それによって得た利益を、『 原子力に頼らず、更に地球環境にも優しい発電方法を強力に研究していく 』、という姿勢こそ、日本がすべき方向性と思う。事故があったからそれをやめるのではなく、事故を次へのステップにするための課題としてとらえて、進めてほしいし議論がそうあってほしい。それこそが、技術先進国足る日本の進むべき道であり、世界にも国内にも誇れる姿勢と思う。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
原発のコストを真剣に考えないで、他の発電コストと比較することは有害
廃炉の困難さを費用に反映させると再生可能エネルギーのコストをはるかに超えるはず。
再生可能エネルギーのコストは低廉化の傾向があるときに現実に目をつぶる政策は国民の利益に反します。
電通やマスコミ関係者特にテレビコマーシャルに惑わされないで。
コメントありがとうございます。
認識の相違はあるようですが、ご意見は勉強になります。
東電と東北電力と分かれてるって知らなかった。何をするにもメリットデメリットはあるよね。感情論に流されず冷静に判断できる国になって欲しいものです。
原発の怖さは、感情的には良く理解できるけどね。
ただ、今の反対運動はどうみても「ためにする」反対運動に見えて・・・。
しっかり合理的に判断してほしいねぇ。