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2017年の日本の製造業の「不正報道」から現状を考える

神戸製鋼の記者会見(2017/10/13)

2017年の日本の製造業の不正報道から、報道及び問題の本質について考える。

2017年の後半に、日本企業の製造業に疑問符がつく不正事件が相次いで報道された。それらについて記述したい。

1.不正事件の報道とその内容による問題点の考察

2017年の後半に、相次いで日本の製造業の不正問題が報道された。神戸製鋼の品質数値の改ざん、日産自動車の無資格者により行われた検査、三菱マテリアルの子会社によるデータ改ざん、東レの子会社で行われていたデータ改ざん等である。
マスコミはこぞって、「日本の製造業は問題」と相変わらず無責任な悲観論だけの論調に見える。今のマスコミを疑って見ている私からすると、マスコミの報道ぶりで思うことは2つある。一つは薄っぺらな取材ともっともらしい正義論で「日本は大丈夫か」という相変わらずの日本悲観論を喜んでやっていること、もう一つはこれだけ一斉に出てくるのは何かしらの意図があってやっているという疑念、といったところである。

一方、確かに不正等はあったのだが、それによって何か品質上の大きな問題があったという事実は今のところ聞いていない。「ルールを守っていなかった」という事実だけがはっきりしているし、企業側もそれを認めている。「ルールを守っていなかったため迷惑をかけました」、と経営陣が陳謝している。それを見て、マスコミが、「日本企業のモラルの低下」とか「現場の疲弊」とか分析・報道している。

しかし私が思うのは、そもそもその「ルール」が本当に意味のあるものか、ということである。そして、この「不祥事」と言われる問題点の発覚の結果、さらに現場に対して下らない検査やチェックが増えないだろうか、という危惧である。
形式ばった意味のない検査や仕事ばかりが増えて、どんどん本質から離れていかないか、自分の仕事も照らして思うところがあり、考えさせられる問題である。

2.実際起こっていることから考える問題点

少し詳しく見てみたい。ここでは、神戸製鋼のケースと、日産自動車のケースを見る。ネットの新聞記事をそのまま抜粋した。詳細は記事そのものを見てほしい。

神戸製鋼①(産経ニュース 2017/11/22 )

➡産経ニュースへ
電源開発(Jパワー)は22日、松島火力発電所(長崎県西海市)に、神戸製鋼所の子会社が検査データを不正に記載した配管が納入されていたと発表した。実際に使われているが、定期点検などで安全性に問題がないことを確認した。費用請求は考えていないという。
不正があったのは、蒸気を水に戻すのに使う銅合金の配管。両端の寸法を測ることになっていたが、片方は測らずに想定される基準値内の数値を納品書に記していた。
神鋼メタルプロダクツ(北九州市)が調べ、20日にJパワーへ報告した。他の電力会社に納められた配管でも同様の不正が見つかっており、影響が広がっている。

神戸製鋼②(毎日新聞ニュース 2017/10/17)

➡毎日新聞ニュースへ
関西に住むベテラン社員は「鉄鋼製品では30年以上前から検査データの不正が続いている」と証言。自動車部品などに使われる鉄鋼製品の製造には熱処理が必要だが、処理の仕方によって品質に差が出ることがある。「品質検査の結果、一部で合格に達するデータが得られれば、適合品として出荷している」といい、「検査データの改ざんに当たる」と指摘する。
同社はアルミ・銅製品などで基準に合わない製品を計約500社に出荷していたと公表。8日の記者会見で梅原尚人副社長は品質データの改ざん時期を約10年前と説明したが、組織ぐるみの不正は数十年前から常態化していたとみられる。

日産自動車(産経ニュース 2017/11/17)

➡産経ニュースへ
日産自動車は17日、新車の無資格検査問題を起こした原因の究明と再発防止策をまとめ、国土交通省に報告書を提出した。不正は最も古くて38年前の昭和54年から本体の栃木工場(栃木県上三川町)でされていた可能性があり、正規の完成検査員の不足を経営陣が認識せず、組織として規範意識が薄かったことが原因だったと結論づけた。
横浜市の本社で記者会見した西川(さいかわ)広人社長は「信頼を裏切る行為となり、改めて深くおわび申し上げる」と謝罪し、自身の報酬の一部を自主返納したと説明。不正については「係長以下で行われた現場の習慣」とし、西川氏ら経営陣が認識していたと認めなかった。

上記の記事を見て、どう思うだろうか?もちろん、「不正」といわれれば不正なんだろうが、それにより消費者に大きな障害を及ぼすような結果は生じていない。しかも、何十年も前からやっていても、問題が生じていないのである。
となると、「ルールを守っていなかった」という意味では、当事者通しで話し合えばいい話のような気がする。それより、「不正」が行われたこと、自体より、その「不正」の根拠となっているルールが本当に必要なものなのか、無駄なことをしていないのか、という疑念が生じる。その観点から、この一連の報道及び内容を見て私が思う問題点は、下記の3点である。

point
① 経営陣の今回の対応(不明確な謝罪及び現場の責任についての言及)は、現場の不信・あるいは不満を増大させ、それにより現場の力はより悪化するのではないか。
② これにより更に検査等が増えてルールが増大しそれに工数が裂かれ、仕事は増えたが現場の力は下がる、ようなことになるのではないか。
③ この不正の元となるルールこそ見直されるべきではないか?もしくは、「見直すべき」という議論が起こるべきではないだろうか。

3.経営陣の謝罪会見の意味と現場への影響

いつも思うことだが、ここで経営陣が報道に対して謝罪することに意味があるのだろうか。一体誰に対して謝っているのか?消費者は何事もないのに、である。
ニュースの記事以上の情報はとっていないが、私が思う全体的な経営陣の問題点として3点ある。

神戸製鋼の記者会見(2017/10/13)

神戸製鋼の記者会見(2017/10/13)

(1) 当該事項を知らなかったこともしくはそう言い切ったこと。
(2) 謝罪という行為をあまりに簡単にしすぎる(もしくはそう見える)ため、結局「現場が悪かった」という印象だけが残ってしまい、問題の本質に届かない、あるいは問題が「現場の怠慢」という非常に短絡的なものになってしまう。
(3) 対応が、謝罪とさらなるルール作りという最も安易かつ無駄な方向性しか見えてこない。

まず前提として、記事はマスコミが意図的に悪い部分を強調して報道している可能性が高いため必ずしも経営者の意図が的確に報道されているかは不明、という点をご了承いただきたい。その上で、自分の仕事を通じた経験からも見えてくる問題点が上記の3点である。

(1)は、もちろん上層部が細かいことまですべて知る必要はないし、知らないだろう。ここでいいたいのは、それも含めてそれをこのタイミングでしかも記者会見で発言すれば、結果的に現場が勝手にやったことが印象づけられるし、現場としても経営者が現場に責任を押しつけていると思う、ということである。これは現場のやる気・信頼を大きく落とす。このやる気・信頼の低下は、そのまま品質にも影響する。

(2)は、(1)の話と似通っているが、ここで報道陣に謝るというのは、どういう意味か全くわからない。これにより「(世間に対して)悪いことをした」と確定し、しかも(1)の話が合わされば、現場にとってはたまったもんではない。結局、「現場力」を下げるだけのように思う。

(3)は、仕事をする上でより深刻な話である。上層部が上っ面だけで動かれると、結局、「コンプライアンス」という合い言葉の元で安易なルールを追加してきて、チェック体制だけ強化する。しかしその「チェック体制」とは、書類が増えるだけであったり、検査が増えるだけだったりする。更に人は増やさない。とにかく、行き当たりばったりの対応をすることで、かえって現場が疲弊し、より不正を生む、という方向性にどんどんいっているように思える。

4.現場での形式主義的仕事の増加

製造業に限ったことではなく、何か問題が生じると、安易なチェックやルールを増やすだけの対策がとられることが多い。往々にして「コンプライアンス」という言葉が安易に使われ、変なルールが発生する。これは、経営層だけのことではなく、現場でもチェックが大好きとしか思えないくらい、新たなルール・チェック体制を作りたがる。私はそうした業務を見直し、無駄な工数を減らす仕組みをシステムを用いて作っている立場だが、こうした「ルールのためのルール」は山のように見てきたし、見ている。
こうした形骸化したルールに縛られている状況、更に言えば、縛られていることに気づかないあるいは見ないふりをして思考停止になりながらもその仕事をして、時間的には忙しいという状況こそが、最も大きな問題と思う。

神戸製鋼の不正の記者会見記事の一部として、下記を見てほしい。

--今回の報告書の中に「顧客規格よりさらに厳しい社内規格を設けていた」が、「一部の製品では、そもそも守れない規格として常態化していた」とある。守れなかったのは、生産設備の老朽化が原因か山本氏(神戸製鋼社長)「アルミ・銅部門では、社内規格が出荷基準になっていた。本来なら顧客の基準を満たしていればいいのだが、顧客の基準が年々厳しくなっていくことを踏まえ、そうした基準としていた。実際の工程能力に照らした吟味がなされないままに、そうした状態が続いていた」

上記の記事にあるように、「社内規定」の話である。このような、「そもそもそんな仕事する必要があるのか」という仕事は、どこの会社でもどの部署でも、本当にたくさんある。これこそ大問題だと思う。
最初にその仕事あるいはルールを作った時点では必要だったのだろうが、それがなんとなく続けられるケースは本当によく出会う。あるいは、その目的が達成されたら更に厳しくと、そこだけに突き進んでいく。しかし、それがあまり意味をなさないあるいは無駄と思っていても、議論にもせずそのままなんとなく継続し、毎日の仕事として工数に入れる。それで忙しくなっていき、本来の品質確保・チェックができなくなる、といったことは、よく出会う。まさに本末転倒なのだが、これこそが日本の企業の成長が止まっている大きな元凶のように思う。過去のルールにしがみつきそれを変えることを想像せず思考停止に陥り、気づいたら、時間的には忙しいのに、レベルは落ちていっている、ということである。

行政でもそうしたことは起きている。原発再稼働がめっぽう厳しくなったのはある程度仕方ないにしても、そのための書類の量たるやすごいらしい。それを作る方・見る方、ともに書類チェックが仕事となるだろう。また、ついまえに話題となった自衛隊の日報の件以来、自衛隊はこうした文書をきちんと残さなくてはならなくなり、やたらと工数が増えたという。更に、森友・加計学園騒動を野党が持ち出せば、中央省庁はそれに対応しなくてはならなくなり、官僚たちの残業が増える。あんな無根拠で国益にマイナスしか生じさせないような問題に対して、かなり学歴が高い優秀な人達が一生懸命資料を作っていると思うと、悲しくなる。

私が無駄な仕事の表現としてよく使うのが、「穴を掘って、穴ができたらまた埋めて」という仕事を与えている、というものである。自戒も込めていえば、本当にこの手の仕事はよくある。仕事とは、成果があって初めて仕事である。成果(付加価値)が出ないあるいは小さいのに工数だけかかる仕事があるのなら、そのルールがおかしいのである。時代と状況と共にルールも変わるべきだし、それを変えることをしていかない限り、会社も人間も発展は難しいと思う。

5.魔女狩りと日本悲観論に終始するマスコミの罪悪

マスコミのひどさは、これらの記事からも読み取れる。一体何様だといいたいし、薄っぺらに「ルールを守らないのは悪い」としか言えない記者には辟易する。日本の国力を削ぐ目的があるとしか思えないくらい、ただひたすら批判だけしているようにしか見えない。魔女狩りのごとく経営者をあげつらい、自分たちが国民の代表と言わんばかりの態度で、自分たちの思い込みを押しつけているようにしか見えない。これで、日本の製造業のことを本気で憂いているのだろうか?

NHKの記事(➡NHK NEWS WEB)を見た。私の印象は、NHKの「感想」だけばかりで、事実関係等の中身が全くない。見出しに「口を閉ざす関係者」といって取材に応じてくれない隠蔽体質として強調し、数少ない取材に応じた人の言った言葉をことさら強調している。あまりに印象操作に過ぎる。「不正」という言葉は非常に重いはずなのに、この不正が何に違反した不正か、結果何が問題点か、などという論点は全くなく、あくまで印象だけを強調した内容にしか見えない。実際この記事から事実関係が全然見えないので、全く私の参考にならないのである。NHKの思い込みだけを見せられても、としか言えない。

こうした印象操作的な記事や報道は、本当に問題だと思う。事実をねじ曲げるだけでなく、これが現場や会社を萎縮させて、日本に対して大きな実害をもたらしている。私は全く見ないしマスコミを信用していないからいいが、やはりこういう記事を見ると悲観論がまかり通ってしまう。全部が全部悪いわけではないし、論点をはっきりさせれば大きく改善できることである。マスコミの罪は重い。

6.ルールそのものを変えていくという発想

私自身の経験として、いろいろな会社・部署を見てきて、いろいろ業務を見直す場面に当たり、それをシステムを使いながら改善している。今回の不正の話は全く他人事ではなく、よくある話と思いながら見ていた。マスコミまで出るかどうかの違いだけである。

形骸化したルールや不効率なやり方がある一方、新しい仕事も入ってくるので、現場は忙しい。しかし、形骸化したルールや不効率なやり方はそのまま残り、仕事は減らずむしろ増えていく。みんな一生懸命やっているのに成果はあまり出ず、上司も忙しいのではそれに対して無理解、という状況はどの会社でも起こっているのではないだろうか。

私は、仕事は嫌いではないが「無駄な仕事」は大嫌いである。形骸化しているルールや不効率なやり方は、どんどん変えていけばいいと思っている。組織の中でルールややり方を変えるのは本当に苦労する。しかし、無駄と思われる業務に時間を割くことは、人生を無駄にしている。大の大人が人生の一番多くの時間を割いて仕事をするのであるから、できるだけ、意味のあること・やりがいを感じられることをしていきたい。

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