- 2018-4-28
- 経済
- 4 comments
「有価証券報告書」の内容と、活用方法を見る
「有価証券報告書」という書類について記述する。会計士の会計監査の対象の書類のため、私は嫌と言うほど見ている。非常に内容が豊富で、企業を見る上で欠かせないものだが、意外に知られていない。無料で公開されているものであり、こうした情報を知っているか知っていないかで人に差がついてしまう。
今日はそれについて解説を兼ねてまとめてみた。企業を見るために専門家は必ず見るものである。是非、ご覧いただきたい。
1.有価証券報告書と企業の決算報告
ページ目次 [ 開く ]
有価証券報告書とは、上場企業に提出が義務づけられた書類である。基本的には、年に一度、株主総会後に作成され、その公表がなされる。通称は「有報」と呼ばれる。
上場企業は例外無く必ず提出が義務づけられる。更に、その簡易版と言える「四半期報告書」が四半期ごとに公表される。
この有価証券報告書はかなりのページがあり、全部読むのはなかなか大変な量といえる。しかし、企業が外部に出す最も情報量の多い報告書で、会計のみならず企業情報が多く表示される。まさに情報の宝庫とも言える。
しかし、どうしても量が多いことから、その作成期限には余裕がもたれているため、決算日が来てもすぐには開示されない。例えば3月決算の会社ならば、提出されるのは6月末が多い。
なお、これでは決算の内容を知るのが遅すぎることもあり、決算の金額だけ別の形での公表が義務づけられる。それは「決算短信」と呼ばれる書類であり、これは決算の締め以降、かなり早い段階(45日以内)で開示される。ニュースになる決算金額は、大体この「決算短信」を元に公表されている。
2.内容解説
ページ目次 [ 開く ]
企業の状況を事細かに報告するのが、有価証券報告書である。その内容は以下の通りとなっている。
有価証券報告書の内容
- 企業の概況:沿革や事業内容、関係会社の状況、従業員の状況 など
- 事業の状況:キャッシュフローの状況や、事業分野の情報、やるべき課題、研究開発の状況、抱えているリスク、重要な契約 など
- 設備の状況:設備投資をどのようにしたか。既存の設備投資はどこにあるか。
- 提出会社の状況:株式についての記載。株式の総数や資本金の推移、大株主の状況、ストックオプションの内容、配当、株価、役員の状況 など
- 経理の状況:連結財務諸表(連結貸借対照表・連結損益計算書・連結剰余金計算書・連結キャッシュフロー計算書)、財務諸表など。
- 提出会社の株式事務の概要:決算期や株主総会など、事務的な内容
- 提出会社の参考情報:親会社の情報など
【1.企業の概況】は最も見るところである。これにより直近の企業の業績が見て取れる。また、「沿革」を見ることで、企業の歴史の概要が見える。「従業員の状況」はかなり細かに記述がある。人数はもちろん、平均年齢・平均勤続年数・平均給与と、なかなか面白い情報が見られる。
【2.事業の状況】や【3.設備の状況】は会社の企業力そのものが見ることが出来る。ただ、少し読みにくいところではあるので、さらっと飛ばしてもいいところ。
【4.提出会社の状況】には株主の状況等が示される。ここはよく見る。特に、「大株主の状況」は会社の株主の構成が見られる。また、「役員の状況」は全役員の簡単なプロフィールが示されていて、株主構成と合わせて、会社の構成が良く見て取れる。
【5.経理の状況】は、会社の決算が細かに示される。かなり詳しく欠いてあるが、相当な専門家で無い限り、読みにくいだろう。ただし簿記の知識があれば、B/S・P/L・キャッシュフロー計算書、あたりをさらっと見れば状況は見える。
このように、企業の状況はかなり詳細に見れる。決してお金も必要ではなく、不法な情報入手でもない。就職するときや取引するとき、また株を購入するときなど企業の情報について、知る人と知らない人とで差が付いてしまう。是非、こういう情報を知った上で、賢く選択できるようになりたい。
では、具体的な見方について、次に説明する。
3.閲覧方法 ~EDINETの使い方~
ページ目次 [ 開く ]
有価証券報告書は、金融庁の運営する「EDINET」というホームページを開けば見られる(➡EDINET)。これは金融商品取引法という法律にのっとって金融庁が運営するものであり、国民として、また海外の人も含め、見ることは自由である。知っている人は、かならずこれを見ていると言って良い。それくらい重要な情報であり、有価証券報告書は有用な情報を提供してくれる。
EDINETのページを開いた後に、「書類検索」のタブをクリックする。そうすると一番最初に「書類提出者」を入力する欄がある。そこに、自分の調べたい企業の名前を入れれば出てくる。リストとしては有価証券報告書と四半期報告書と一緒に出てくる。最初に見るべきは有価証券報告書で、四半期報告書や半期報告書はあくまでその簡易版として捕らえれば間違いない。
EDINETにある書類は、ページ閲覧の形で見られるかPDFファイルの形で見られる。PDFファイルはダウンロードできるし一気に見られるので、こちらの方がおすすめである。
EDINETは一見して少し使いにくそうに見えるが、少し慣れればすぐに使える。慣れるだけでこれだけの情報を得られるようになれる。税金で運営された国の仕組みとしての開示システムである。是非、まずは触れることをおすすめしたい。
4.「会計監査」の実態から見る有価証券報告書の信憑性
ページ目次 [ 開く ]
このように有価証券報告書は開示されているが、情報を見る方は、「こんなタダで得られる情報に信憑性があるのか?」と思うこともあると思う。かくいう私は、基本的に疑り深いので、この手の無料情報をあまり信用していなかった。
しかし、会計士になり「会計監査」という業務を自分で経験した今、「有価証券報告書は信用に足る文書」、と断言できる。理由は、この有価証券報告書がEDINETに開示されるまでに、必ず会計士監査というチェックが入り、その記述に誤りが無いか入念にチェックされるためである。第三者である公認会計士が監査に入り、その責任をかけて徹底的に監査を行う。厳密には有価証券報告書全体を監査しているわけではないが、会計情報は徹底的に見るし、有価証券報告書全体もある程度はチェックする。もちろん、企業が確信的に粉飾やら偽装をして会計士をだますレベルまですれば、見つからないこともあるが、ほとんどの企業の出す有価証券報告書については、まずそれはないと言っていい。
また、有価証券報告書の記述方法は、「金融商品取引法」に基づき、厳格に決められている。企業が自由に出来るものではない。すべて、法律・法令により決められていると言って良い。その中で、企業それぞれの独自性を出すだけである。逆に言えば、それを逸脱すれば法律違反となり、罰せられるのは企業であり、それを見抜けた買った場合には会計士も訴訟の対象となる。
それほど厳格な書類が「有価証券報告書」である。企業がホームページで出すものとは、信憑性のレベルが違うと言って良い。非常に信用度の高い書類として理解してもらっていいと思う。
5.情報を正しく知ることのすすめ
ページ目次 [ 開く ]
このように有価証券報告書は、これだけの情報があり、また信用度が高い書類にもかかわらず、無料で誰でも見られる。就職の時に企業を見たいとき、株を買うときに会社を知りたいとき、知り合いの会社がどんな会社か知りたいときなど、いろいろな場合があると思うが、まずは有価証券報告書を見ることを強くおすすめする。この書類により得たい情報は人によって違うだろうが、上場企業を見るときにはまずこの書類を見ることで、企業全体の理解は大きく進む。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
私のためのブログですか?(笑笑
会計士とのやりとりは、大変ですが新鮮です。
色々相談させてくださいね。
有報は情報満載なので是非の利用を。
いつでも聞いてくださいねぇ。
また新しい情報!ありがとうございます。
うちの会社もまる三年経って、ようやく四半期ごとに試算表を出すようになりました。とにかく無我夢中で働くだけ働いても、しっかりキャッシュフローを踏まえてないと働き損になってしまうこともあるので、見て見ぬ振りをしてきた事務の仕事を毎朝早起きしてチェックするようになりました。
テツさんのおかげです。
いつでも教えるよぅ。会計は本当に大事だからね。