自動車業界で盛んに言われる「CASE革命」の内容と、今後の動きを見る。
「CASE革命」という言葉が自動車業界で盛んに言われている。技術革新により、自動車業界は「100年に一度の変革期」とも言われる時代にいる。そのキーワードとして「CASE革命」が挙げられる。現在の自動車産業の動きを、このキーワードと共に見ていきたい。是非、ご覧を。
1.自動車産業は衰退産業?
「自動車産業」は言うまでもなく日本の屋第骨を支える、まさに「基幹産業」である。その規模は大きく、それに関連する人は非常に多い。また、その産業が生み出す「自動車」は人々の生活に大きく影響し、車があるかないかで生活は激変するほどの影響力を持つ。
それほどの自動車産業を、今「衰退産業」と言う人がいる。もちろん、すぐにと言うことではないが、少なくとも「今のままでは生き残れない」という認識は共通している。
そのキーワードとして「CASE」という言葉が使われる。「衰退する」といわれる現在の自動車産業が、次の方向性としてあげている「CASE」というキーワードを中心に、自動車産業の未来を考えてみたい。
なぜ、自動車産業が「衰退する」とされるのか。原因は、とにもかくにも「技術の革新」が大きく進んでいるためである。
① 通信インフラの飛躍的な向上とAI技術の発達により、「自動化」が可能になった。
② 動力が「ガソリン(ディーゼル)の燃焼によるエンジン」から、「電気のモーター」への技術革新が進み始めた。
③ ①・②により、一家に一台あるいは一人に一台といった考え方にとらわれない、「車」の所有・サービスの変化が可能となる。
大きく言えば、上記の3つの「技術革新」が現在の「自動車産業」のあり方そのものを変えていく、と言うことになる。それはじわじわとだが、しかし確実に動いている。
今のガソリン自動車の歴史は、1960年代頃から大きく伸び始め、各国がしのぎを削って「自動車覇権」を狙って生産をしてきた。日本もその最有力の一角の位置に付けたために、アメリカに標的にされて叩かれたり、Chinaに技術を盗まれたり、といろいろな変遷を経てきている。とにかくそれでも、重要な一角を締め、トヨタ自動車を筆頭に日本車は高い技術力を背景に、多くの支持を取り付けている。
しかし、既に80年近くも「世界の主要産業」として生き続けてきた「自動車」は「根本的な構造に大きな変化はなかった」、と言われる。安全装置が付いたり、スピードが速くなったり、燃費が良くなったりはしたが、
という、基本構造は80年の間、まったく変わってこなかった。しかしそこに、遂にそれを崩す技術が可能なレベルまでに向上し発展してきたのである。
だからこそ、「現状の自動車産業」は「衰退する」と言うことになる。なくなるわけではないが、「自動車」を「四輪で走り、エンジンを積んで、ハンドルとブレーキとアクセルで操縦する。」とするのなら、それに変わる物が生まれつつあり、それに対応しないと既存の自動車産業は生きていけない、とまで言われている。
2.「CASE革命」とは?「Maas(マース)」とは?
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「CASE革命」という言葉が、自動車産業では盛んに言われている。最初にこれが言われたのは、、2016年9月のパリモーターショーで、ダイムラーのディーター・ツェッチェ 会長が発表したスピーチからだった。
ツェッチェ氏は、たくみなスピーチをこう始めた。
「若い時に電子工学を専攻すると言ったら、『おまえ馬鹿だな、機械工学にすべきだ』と誰からも言われた。しかし、この40年間は間違っていなかった」
このように始められたスピーチで言われたのが、「CASE」という頭文字を取った4つの標語だった。生みの親のダイムラー(メルセデス)のHPに下記のようにある。
簡単にまとめると以下のようになる。
通信インフラにより車はつながり、繋がったメガ情報からより快適な「移動性(モビリティ)」を創造する
② A:Autonomous(自動化)
徹底した自動化を進め、「人間が運転して移動する」から「自動での移動(モビリティ)」へ
③ S:Shared & Services(シェアリング&サービス)
「車の所有」にとらわれない、多様な形態の所有やサービス。
④ E:Electric(電動化)
動力を「燃焼機関によるエンジン」から「電機によるモーター」へ
これが標語として「CASE」と呼ばれるものである。どれも少し抽象的に見えるかも知れないが、確実に各分野での動きは加速度的に進んでいる。
「コネクテッィド(C)」は既に実用化が進んでいる。GPSはもちろん、カーナビを通じて車はインターネットとのつながりを持ちつつある。
「自動化(A)」も「ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)」など、既に実装済みのものもあるし、自動運転はCASEの中で最も進んでいる分野とも言える。自動運転は0~5までのレベルに分けられ、ほとんど人の運転が必要ないと言われる「レベル3」はすぐ目の前まで来ている。
「シェアリング&サービス(S)」は少しわかりにくいかも知れない。確かにこれは、「技術」が先行した後に発生する分野とも思えるが、これも社会を大きく変える可能性を持つ。バスではなく、自動で人の居ない過疎地へも移動を補助し共有して乗る「ライドシェア」、レンタカーは「カーシェアリング」に取って代わるかもしれない。
最後の「電動化(E)」は読んで字のごとくである。80年近く続いた「燃焼機関によるエンジン」から「電気によるモーター」への変革は、「自動車」という物を根本から変えさせる。ハイブリット車はガソリンと電動の真ん中だが、純粋な電気自動車のEV車の普及も進んでいる。
なお、CASEの概念より広い考え方として「Maas(マース)」という言い方がある。「Mobility As A Service」の略称で、移動(モビリティー)は「サービス」であると考えて、「移動性」という物を広く見る中に「自動車」の位置づけを考える。
3.トヨタ自動車の取り組み
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CASEという言葉は、自動車業界では広く認識され動きはどんどん進んでいる。日本の中心企業とも言えるトヨタ自動車は、そのHPで強くそれを打ち出しているし、社長の豊田章男氏もことあるごとに「CASE革命」というキーワードを用いている。2020年の年頭所感挨拶にもそれが如実に出ている。
トヨタ自動車は、現在日本及び世界でトップクラスをほこるシェアと技術を持つ。しかし、だからこその、この技術の革新に対する「変化への対応」を強く打ち出している。
トヨタ自動車がよく表現するのが「自動車メーカーからモビリティカンパニーへと変わる」ということである。先ほどの「Maas」の考えに沿って、もはや「自動車」は単なる移動手段ではなく、「移動性(モビリティー)」の一部を担う役割を果たし、人々の生活を豊かにする、という考えにもとづいて企業戦略を進めている。
それを表わす最も典型的な動きが、通信会社である「ソフトバンク」との提携である。2019年2月に設立された会社、MONET Technologies株式会社(モネ・テクノロジーズ)は、ソフトバンクとトヨタ自動車との共同出資会社である。ソフトバンクとトヨタが結ぶ理由は、「CASE」への動きに日本として対応するためである。
また、トヨタ自動車が販売店の整理を始めた。「全車種併売」という施策は、今まで「トヨタ店」「トヨペット店」「ネッツ店」「カローラ店」で販売する車種が限定されていたのが、すべて「併売」となった。更にこうした販売店の再編は進むとみられる。それこそ「CASE」の「S:シェアド・サービス」に対応した物と言える。
トヨタほどの「巨大企業」が、自らの技術を変えながら対応することを余儀なくしている。この動きのキーワードが「CASE」といえる。
4.自動車産業は「100年に一度の変革期」
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「自動車メーカーからモビリティカンパニーへと変わる」というのは、トヨタ自動だけのことではない。国内そして世界の自動車メーカーは、しのぎを削って自らの改革を進めている。
この動きは「生き残りをかけた戦い」と言うことが言えるかも知れない。
しかし、これは「技術革新」に対する対応であり、むしろ長く続きすぎたとも言える「自動車産業」が大きな変革期を迎える時期となったと言える。すなわち、「自動車産業の衰退」ではなく「自動車産業の変革期」と考えるべき物と思う。
『自動車産業は「100年に一度の変革期」』という人がいる。まさにその通りと思う。もはや車は「四輪で走り、(燃焼)エンジンを積んで、ハンドルとブレーキとアクセルで操縦する。」では成り立たない。長く続いた自動車産業は、技術革新により大きな変革の波が遂に来ている。
これは決して「衰退期」ではない。この変革をどのようにして自分の物としてリードしていくかの、大事な「成長期」と捉えるべきと思う。
「CASE革命」というキーワードにしっかり注目していきたい。
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